【音楽現代11月号・♪プレビュー・インタヴュー】 5657

 

クロアチアで学んだ若きピアニスト ロシアの大曲に挑む!!

西井葉子ピアノ・リサイタル

 

「この10年を整理しようと選んだ曲です」

訊き手・写真:上田弘子

 

長らくクロアチアを拠点に活動していた西井葉子さん。このたび帰国され、11月のリサイタルではロシア作品の大曲に臨む。いよいよ日本での本格発進を前に、クロアチア話や今後の抱負などを伺った。

 

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紺碧のアドリア海を望む風光明媚なクロアチア。そして熱い民族。そこに位置するミルコヴィッチ音楽院で西井さんは学ばれた。留学に際して日本で行われたオーディションを聴いていた私は、時折り「あの合格者はどうしているだろう」と若干の心配も。ヨーロッパの中でもスラヴ系は良くも悪くも独特な個性。音楽院もその後クロアチア国立ザグレブ音楽院と合併。サバイバルな留学生活を送られているのではないかと。

 

西井 オーディションを聴いていらしたとは!かれこれ10年前ですね。留学するまでも、そして入学してからも、物事は日本のようにきちんと進みませんし、そう、確かにサバイバルでした(笑)。音楽院は素敵な建物なんですが、学生寮は老朽化が激しくて。昔、軍隊の宿舎だった所で、雨漏りはするしシャワーやトイレは幾つかある中の一つしかまともに使えない。停電でロウソク生活や、飛び回るコウモリから逃げたり(笑)。

でも名ピアニストのザラフィアンツ先生とのレッスンがとにかく充実していて、またラッキーにもクロアチア内外でリサイタルやコンチェルトの機会も度々頂けたので、今では良い思い出の方が強いです。

 

―――エフゲニー・ザラフィアンツのレッスンは一種独特で、解釈や奏法に度肝を抜かれることがある。楽曲の様式・形式の真逆を説いたりするが、それを押し付けるわけではない。最終的には音楽が立体的に活き活きとするから不思議である。

 

西井 人と同じように弾くならCDを聴けばいいと。自分らしさ、活き活き、それをいつも仰います。当初はかなりキテレツなことをやらされて、自分の中で大混乱が生じたんです。でもその時、自分の感性や考え、そして表現手段であるテクニックなど、本気で考え客観的に見つめたんです。真の自覚や意志ですね。それからは何かが拓けた感じで。

先生の個性的な解釈からの指導も、本番が近くなるとクールダウンさせられて“普通”になるんです。

 

―――言い替えれば荒治療。

 

西井 そうですね。あれはザラフィアンツ・マジックです。

 

―――リサイタルでは大曲3曲。この選曲理由は?

 

西井 この10年を整理してみたかったのと、とにかく弾きたい曲でしたから。チャイコフスキーの『グランドソナタ』は、ザラフィアンツ先生が前々から強く推していて。私に合ってると。ロシア物は音楽に限らず、文学も美術も桁外れのスケールですよね。生々しくて毒もあるけど、また反対にとても繊細で、音楽の中に気候風土や文化もある。理屈じゃない、そのスケールに惹かれるんです。

今後はクロアチア作品もどんどん紹介していきたいです。ドラ・ペヤチェヴィッチという女流の作品など、リサイタルでも好評なんですよ。

 

―――それは聴いてみたいです。アンコールで是非!

 

 

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