「おい、クワよ。えらい狭なったのう。」 「そやな、スキよ。あいつが来てからや。おまけにガソリン臭なった」 「この物置の8割方あいつが占めとんやで」 「おかげでわしら棒モノは肩寄せ合うとんのや」 「そやのにあのこみは“コーウンキコーウンキ”ってうかれてやがる」 「見たか、しまうとこ。熱冷まして、土落として、草の根とって、汚れ拭いて」 「わしなんか、石に当たって曲がったままほったらかしや。あのこみめが」 「わしゃ、しまうとき土がついとってもコンクリートにカーンで終わりや。あのこみめが」 「あんたら棒モノだけやないで。わしら刃物かてな、拭かん砥がんでサビサビや」 「おお、カマの言うとおりや。この物置にサビてない者はおらんで」 「おーいおいおい」 「誰や、呼んでんのは」 「呼んでるんとちゃいます。泣いとるんです。おーいおい」 「噴霧器やないか。あんたしばらく見やんかったな」 「はい。コーウンキがこの物置に来て、代わりにあたしゃ隣のベランダストッカーに左遷されたんです。ついこの間まではチヤホヤしといて、気が移ったらこの仕打ちですわ」 「ひどい奴っちゃな。あのこみは。ろくな死に方せんで」 「許せんな」 「いてまおか」 「シュプレヒコール!」 「おー!」 「こみは農機具を大切に扱えー!」 「大切に扱えー!」 「こみはメンテナンスもしろー!」 「メンテしろー!」 「こみはしょうゆ皿にサトイモ落として服にしょうゆ飛ばせー!」 「しょうゆ飛ばせー!」 こうしてこみはサトイモをしょうゆ皿に落とし、トレーナーを汚して妻に叱られたのだった。 |