タクシードライバー



「お客さん、着きましたよ。え〜と、ちょうど3000円です」

「あいたっ」

「どうしました?」

「財布を忘れちゃったよ」

「ええ〜、カンベンしてくださいよ、今日はもうこれでアガリなんだから」

「困ったなあ」

「困るのはこっちですよ。ここ自宅じゃないんですか。奥さんとかいるんじゃないですか」

「残念ながらこちとらわびしい独り者でね。会社に忘れてきた財布が全財産さ」

「なに気取ってるんですか。どうするんですか」

「う〜ん、じゃあこれでどうだい。ここにね、群馬県の名品、下仁田ネギの種がある」

「はあ・・」

「どう、これで」

「・・・どういうことですか?」

「だから、タクシー代の代わりにだね」

「なに言ってんですか。冗談じゃないですよ」

「気に入らんかね。じゃあ、この三重は伊勢芋の種芋・・・」

「いりません。お金払ってくださいよ」

「なるほど、さすが商売人だねえ」

「ただの運転手ですよ」

「仕方ない、これが京都の金時ニンジンの種だ。好きなようにしたまえ」

「わたしゃ、馬じゃないんでね。ニンジンなんかいりません」

「馬とは、ウマいこと言うねえ」

「笑えませんよ。早く払ってくださいよ。頼みますよ」

「わかった。実はここにあるこのお豆、これはね、山形のダダチャマメという本当に貴重なも

のなんだ」


「いりません」

「地元以外の土じゃ育たないんだよ!」

「なおさらいりませんよ!そんなものでガソリン焚いてちゃおまんまの食い上げですよ」

「なんだ〜、最初からそう言ってくれればよかったのに」

「え、なにがですか」

「ほら、新潟県は魚沼産コシヒカリのモミ」

「はあ?」

「おまんま」

「そういうことじゃなくってですねえ」

「よし、君は合格だ!」

「な、な、なんですか」

「これを見たまえ」

「いいかげんにしてくださいよ、球根でしょ、これ」

「これはラッキョだ。おおっと、ちょっと聞きたまえ。これはわが社が開発し、特許出願中

の『抜いたらすでに甘酢漬け』でおなじみの、その名も『トッキョラッキョ』だ。一粒一万

円もする超高級品だが、ネットオークションに出品すればあっという間に数十倍。これを個

人的に君に買ってもらい、その金で君に、いや、君の所属するタクシー会社に運賃を支払お

う、どうだ」


「またまた、そんなうまいこと言って〜。信じられませんよ」

「うそじゃない。保障する!開発科の主任がそういうんだから間違いないよ。そうだ、君に

はずいぶん迷惑をかけたね。特別に、3割引にさせてもらうよ。オークションの開始価格は

3万円ぐらいからで十分だろう」


「ええ、じゃあ・・・7000円が、3万に・・・? 話がうますぎるなあ」

「なにいってんの。開始が3万。落札はたいてい20万ぐらいになるよ」

「7000円が、に、20万。あ、でも今日はお釣りがよく出たから細かいのがないんだ」

「あ、大丈夫、大丈夫。お釣りあるから」

「・・・・・え?」

「・・・・・あ!」






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