犬はサラダを食わない



「ねえ、ちょっと。また畑行くの?休みごとに畑はたけ畑はたけって。たまには子供たちを遊びに連れってやったらどうなのよ」

「なに言ってんだ。俺が野菜を作ってるおかげで食費が安く済んでるんじゃないか。この、ボケナス」

「なに言ってんのよ。あんたのおかげでアタシがどれだけ苦労してるかわかってんの。洗濯物は増やす、玄関は土だらけにする、道具は出しっぱなし。だいたい種やら苗やら肥料やらでいくらかかってると思ってんのよ。家計を助けるつもりがあるなら、こづかいでまかないなさいよ」

「なんだと〜、売ってるような野菜とはモノが違うんだよ、このドテカボチャが!」

「誰がドテカボチャよ!そりゃモノが違うでしょうよ。どこのスーパーにあんな泥だらけで病気だらけでアブラムシだらけの野菜が売ってるのよ。このベジタリアンの皮をかぶったノータリアン。アンタとくらべたらボーフラが大学教授に見えるわよ。」

「調子に乗るなよ〜、この・・・このダイコン役者め」

「アタシは芝居なんかした覚えはないわよ!だいたいなんで口げんかまで野菜がらみなのよ!ボキャブラリーまでポットで買ってきたの?アタシも子供たちも間引き菜や出来損ないの野菜にはうんざりなのよ!この甲斐性無しの宿六の貧乏神のゴキブリ亭主!そのうち子供たちが「上意」って書いた半紙をアンタに手渡すわよ。中になんて書いてあるか知ってる?『肉食いたい』よっ!」

「なにを〜、う〜ん、コーンちくしょう」

「何でコンチクショウを伸ばすのよ!大喜利やってんじゃないのよ!アンタ、人の話しを理解する能力がミジンコほどもないの? 聞いたことは全て宇宙に拡散していくの?この逆パラボラアンテナinNASA。野菜から離れなさいよ!この繊維質ボディービルダー、ビタミンおたく、ベータカロチンコレクター!」

「え〜と・・・この、アスパラガス」

「悪口のように言ってるけど、悪口じゃないのよ。意味わかんないわよ。それに、え〜とってのはナニ? 神経伝達物質がナメクジ並みなのよアンタの頭の中の脳ミソ風とろろ汁は腐ってんの?アタシをけなすより野菜の名前を織り込む方が主になってんのよ!ネキリムシの容姿とアオムシの思考力とカメムシの匂いをあわせもつ男、それがアンタよッ!」

「いったな〜、この〜、あの〜、鬼おんな」

「『オニオン』がはいってるのよ!この野菜憑依霊。普通にしゃべったらどうなのよ、ええ。アンタはスギナよりメザワリで梅雨よりうっとうしくて猫のフンよりジャマなのよ!アンタはパーよ。色ならパープル、割合はパーセント、パーフェクトなパー。バルタン星人に生まれ変わっても両手はパーよ。この考古学的、天文学的、解剖学的パー」

「・・・・・」

「今にらんだでしょ。にらんだでしょ。‘ニラ,でしょ。空気1立方メートル中に含まれるアルゴンの量ほどのアンタの知恵で考えることは、手に取るようにわかるのよ。アンタなんか、死んだ大腸菌にわいたうじ虫よ。愚か者協同組合のコードネームはたわけ大僧正よ。棚からエロガッパよ。パイナップル入りスブタよ。外道と野蛮人とふんころがしとカマドウマの盛り合わせオードブルよー!」

「・・・・・」

「はぁ、はぁ、なんとか言いなさいよ。・・・はぁはぁ」

「・・・だけどお前にホ〜レンソウ・・・」

「んまぁ、あんたったら。いやん、ばかばか」

尚、この夫婦の特定のモデルは存在しません。






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