13、表現について
「冬だなあ」 「寒くなりましたね」 「こんな時は、体があったまるモノが食べたいな」 「鍋なんかいいですね」 「なべ?」 「ええ、水炊き、ちゃんこ、土手鍋、スキヤキ・・・」 「バカモーン!」 「鍋の好みでバカモンとまで言われますか」 「当たり前じゃ。我々は野菜の味方だぞ」 「鍋モノの野菜もおいしいじゃないですか」 「ダメじゃダメじゃ。鍋料理は野菜の色が黒ずむのじゃ」 「黒ずむ? 味がしみてるってことじゃないですか」 「味がしみても野菜の美しさを損なわない料理はあーる」 「それは?」 「クリームシチューじゃ」
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「なるほど」 「白地にニンジンの赤、コーンの黄、ブロッコリーの緑、ホウレンソウのグリーン」 「緑とグリーンを分けましたね」 「後から振り掛けるパセリの草色」 「ちょっと無理がありますね」 「地の色に混ざって目立たないが、カブの白さも捨てておけん」 「そうですね」 「あのカブのとろけて行く感じ、たまらんじゃろ」 「確かにカブはとろけますね」 「そこでじゃ、今回は野菜の中で最もとろける『カブ』という字を決めたい」 「色は関係なかったんですね」 「カブは根菜だからヤサイカンムリ。そこにとろける字を当てたいなあ」 「すると『溶』ですか」 「いやじゃ、そんな『溶接』みたいな字」 「じゃあ『融』かな」 「そんな『金融』みたいな字はまっぴらじゃ」 「それなら『解』ですか?」 「どうしてそんな『解毒剤』みたいな字を」 「博士のイメージの仕方がおかしいんですよ」 |
「だいたいお前の言うのは全部『とける』じゃないか」 「じゃあ『とろける』ってどんな字なんです」 「それはな『蕩ける』じゃ」 「『蕩』?」 「うむ」 「・・・」 「・・・」 「なじみがないせいか、全然とろけ感を感じませんね」 「じゃろ」 「どうします?」 「そこでじゃ、食べ物に関する表現は、料理レポーターから学ぶのじゃ」 「なるほど、定番の言葉がありますからね」 「舌の上から消え失せた〜」 「そうそう」 「いやじゃ、そんな『消石灰』や『茫然自失』みたいな字」 「自分で言ったんでしょうが」 「なくなっちゃった〜、ってのはどうじゃ」 「あ、それいいですね」 「じゃあ『カブ』という字はヤサイカンムリに『無』で決定!」 「ちょ、ちょっと待ってください、博士」 「なんじゃ?」 「今、世間一般で使われている『かぶ』という字は『蕪』ですよ」 「そうだな」 「クサカンムリに『無』ですよ」 「いいじゃん」 「なに都会っ子ぶってるんですか。それじゃ新しい漢字を作る意味がないでしょ」 「そこはそれ」 「なんですか?」 「カブったってことで」 「またダジャレかよ!」 |