12、当て字について
「博士、もうすぐ春ですねえ」 「うむ、待ち遠しいのう」 「春は好きですか」 「そりゃお前、光熱費は安く済むし、女子は薄着になるし、野菜は芽が出るし」 「その通り!」 「なんじゃ?」 「実は私も考えたんですよ」 「なに?お前が考えただと!頭がこむら返りを起こさなかったか」 「失礼な。私が考えたのは『アスパラガス』という漢字です」 「はは〜ん、わかったぞ。ヤサイヘンに『春』だろう。安易だな〜」 「違いますよ。アスパラって、ツクシみたいに・・・」 「わかったわかった。『土筆』からとってヤサイヘンに『筆』だな」 「違うって。ツクシみたいに芽を・・・」 「おーおー、ヤサイヘンに『芽』と書いて・・・」 「話を聞けー!」 |
「特別に聞いてやろう」 「ツクシのように芽が出るから、ヤサイヘンに『出』」 「出?」 「出です」 「出か・・・」 「なかなかいいでしょ」 「ツクシのように芽を出すから『出』というのはどうじゃ」 「・・・なにが違うんですか」 「じゃあ、芽が出ずる」 「おんなじ字でしょう」 「じゃあ『出芽』の出」 「出芽ってなんですか。それも言うなら『発芽』でしょ」 「おお、それそれ。『発』の方がいい。断然いい」 「だめですよ。発芽は種から芽が出ることでしょ」 「ぐむむ」 「それにアスパラって成長して小枝が出ると形も『出』に似てるじゃないですか」 「ぐむむむ」 「どうです。いい案でしょ」 「ぐむむむむ・・・よくない」 「ええー、なんでー、どこがー」 「ともかく、よくない」 「はは〜ん、私がいい案を出したから悔しいんでしょ」 「・・・ちがう」 「うそだ、すねてるんでしょう」 「・・・ちがう」 「子供みたいなこと言わないでくださいよ」 「ちがうもん」 「子供みたいに言うなっ」 |
|
「行き詰ったときは考え方を変えるに限るぞ」 「行き詰らせてるのは博士でしょ」 「たとえばサンマは『秋刀魚』という字を当てるじゃろう」 「突然ですね」 「アスパラガスという当て字を考えてみろ」 「当て字ですか」 「誰がどう考えても『明日腹瓦斯』じゃろ」 「それじゃ『あすはらがす』ですが・・・」 「この『腹』は『すきっ腹』の『ぱら』じゃ」 「はいはい」 「明日、腹からガスが出るから、ヤサイヘンに『出』でどうじゃ」 「なんでそんな遠回りをするんですか」 「じゃあ、腹からガスが出ずる」 「くり返すなー!」 「じゃあ『出ガス』の『出』」 「それも言うなら『放屁』でしょう」 「おお、『放』がいい、断然いい」 「いいかげんにしなさい!」 |