あくせく一句  第十八夜 聖夜

ケーキにろうそく、ツリーは装飾 逆から読んだらスマスリク。いよいよ、オープニングに困ってきた種田米床火です。さすがは天下の大イベント。今宵はクリスマスにちなんだ句が目白押しです。



 羽のばし 手足伸ばして おおいびき      (詠人 kimkim)


相撲取りを詠んだ昔の川柳に「一年を 十日で暮らす いい男」というのがありますが、サンタクロースは一年のうちたった一日しか働かないのです。その一日は364連休明けの超ダルイ日でもあり、364連休前の超花金でもあるのです。こんな生活が続けば、人間誰でもたるんでしまうでしょう。そのうえ、いかにもいびきをかきそうなオヤジじゃないですか、サンタクロースって。



 胃と腸が 鳴くので山から 鹿も出る      (詠人 水仙厠)


ひとつ断っときますが、アレは鹿ではなくトナカイですよ。雪深い北欧の山中では食べるものもろくにないでしょう。言わば、一年ぶりに正当に餌をもらえる仕事にありついたのです。仕事にあぶれたほかの日は何をしてたんでしょう。昼間からガード下で安酒でもあおってたんでしょうか。それで鼻が赤くなってしまったんでしょうか。しかし、北欧の山中にガード下があるんでしょうか。ガード自体、あるかどうか怪しいものです。 



 
さあ飲もう! はぜる焚火が 尽きるまで    (詠人 芽香出高)


これはサンタさんが出発する前の情景を詠んだ句ですね。この寒い時期に、夜、上空を猛スピードで飛ぼうというのですから、体を温めておかねばやってられないでしょう。酒を飲んだり火に当たったりするのは仕方ないでしょう。ただ、そんなにいつまでも飲んでちゃ、間に合わなくなってしまいます。早く出発しましょう。おっと、そこのあなた。飲酒運転だなんて言ってはいけません。目的は住居侵入なんですから。



 妻が言う 帰ってきたら ごみ増えた      (詠人 パピーおじさん)


なにしろリサイクルの世の中です。サンタクロースといえども、過剰包装は持ち帰らされるのかもしれません。子供たちの枕もと、靴下の横にはたどたどしい字で張り紙が「こみはもってかえってね」これは教育が行き届いているというよりは、親のさしがねでしょう。中には、包装紙や箱を大事に保存している家庭もあるのでしょうが、あれってなかなか使うことないんですよね。まだ25日、もう一回ぐらいこみの回収はあると思います。



 ヒンシュクも 叫び続けりゃ 名声に      (詠人 たかお芭蕉)


なるほど、確かにそうかもしれません。かのサンタクロースでさえ、はじめの頃は、勝手に人の家に忍び込むだの、子供をモノで釣るだのと苦情が絶えなかったはずです。継続は力なりです。ただ、名声がヒンシュクモノに落ちるのは一瞬です。詠人のように次々と新たなヒンシュクをかっていたら、名声になる暇がありません。詠人の名声度をグラフにしたらノコギリのようになるでしょう。それもカナノコのような目の細かいノコギリ。



 便所バエ 便所で死ねたら 本望やろか     (詠人 マメダ丸)


この理屈だと、たたみいわしは畳の上で死にたいと思ってるんでしょうか。オオトカゲは千葉県佐原市大戸で最期を迎えたいんでしょうか。ゴクラクチョウは極楽で死ぬのが本望なんでしょうか。そんなことよりも、この句、掲載はクリスマスに、ということですが、何か意味があるんでしょうか。ひょっとしたら誰かへの暗号ですか。そうだとしても、もっとマシな暗号がなかったんでしょうか。



 夫婦から 恋人になる 今宵かな        (詠人 霊魔)


おお、このコーナーには珍しいロマンチックな句ですねえ。日々の暮らしに疲れ果てたつがいが、今夜だけはあの頃の二人に・・・。君の瞳にカンパイしたり、肩たたき券と皿洗い券のプレゼント交換をしたり、ケーキに非常用ろうそくを立てて台無しにしたりしてるんでしょうか。はっ、まさか、債権の取立てから逃れるための生き残りをかけた偽装離婚の話じゃないでしょうね。あわわわ・・・


ジングルベールジングルベールつつがなく、聖夜の用意をはよせいや。今宵のあくせく一句はこれにて終了。今年のクリスマスパーティーには句会などいかがかな。ツリーの短冊に書くお願いも五七五で。ケーキの分け方も5:7:5。とかくこの世は五七五。ではみなさん、また来年お目にかかりましょう。良いお年をお迎えください。


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