あくせく一句  第十七夜

 ピーチクパーチク井戸端トーク、噂の主に無い自覚。さあ、皆さん、あくせくな一句に浸りましょう。司会、進行、責任者、なんと呼ばれようと自信の揺らがない種田米床火が、あなたの手をとりご案内いたします。
さて、今回は新趣向「あくせく一句ミニミニシアター」でお楽しみを。


 秋茄子を せっせと届ける わが姑     (詠人 kimkim


「さあて、今日はこのぐらいにしとこうか」汗をぬぐってほっと一息。カゴには秋茄子が山盛りです。「よおし、またkimkimのところに届けてやろう」よいしょとカゴを背中に背負って、額の汗をひとぬぐい。近所でも評判の働き者。その名も知れたナツおばあちゃん。


 行く夏を まだかまだかと 蚊を叩き    (詠人 ふうてんこうちゃん)


畑の北の藪の中には、ふうてんこうちゃんが隠れていました。ナツおばあちゃんのおいしいナスを狙っているのです。だけど藪の中には蚊がいっぱい。おばあちゃんが行くのを待っている間に、体中くわれてかゆいかゆい。「おばあちゃん、早く行かないかなあ」


 空見上げ ゆく雲早く さらば夏      (詠人 芽香出高)


南の草むらには芽香出高さんが寝転がっていました。体の大きい芽香出高さんはしゃがんだくらいでは隠れられなかったのです。青い空に白い雲。「おばあちゃん、あの雲のように早く行ってくれないかなあ」おばあちゃんはゆっくりした足取りで、どんどん遠ざかっていきます。「バイバイ、おばあちゃん」なんという言い草でしょう。


 ゆく夏に ここを先途と 蝉の声      (詠人 じゅげむ@草木子)


東の木の陰には、じゅげむさんがひそんでいました。「おばあちゃん、もう行ったかな」のぞいてみようと枝に手をかけて身を乗り出すと、ばきばきばきっ。じゅげむさんの重さで枝が折れてしまいました。「おや、誰かいるのかな」おばあちゃんがふりかえると、あわてたじゅげむさんは、セミの鳴きまねをしました。「み・・・み〜んみ〜ん」


 歩いてる せみとゴキブリ 間違える    (詠人 thyme


「なあんだ、ゴキブリか」おばあちゃんはまた歩き始めました。ほっと胸をなでおろすじゅげむさん。でも、ほんのちょっぴり、心に傷ができました。だってあんなに上手にセミの鳴きまねができたのに・・・。


 ゆく夏を 見送り茄子の 枝を切る     (詠人 霊魔)


おばあちゃんの後ろ姿が小さくなると、西の側溝から霊魔さんが這い出てきました。「へへへ、やっとおばあちゃんが行ってしまったわい」さっそくナスを摘みはじめます。枝ごと切るなんて行儀が悪い。そこへみんながぞろぞろ出てきました。「なんだお前は!」「あんたこそなによ」もうてんやわんやの大騒ぎです。


 夏草を 早く刈れと 虫の声        (詠人 すいどうやさん)


それを見ていた虫たちが口々に言いました。「おばあちゃん、雑草を刈らないからあんなやつらが隠れるんだ」「でも、雑草もそのまま、殺虫剤もまかないから、僕たちはこうしてのんびりいられるんだよ」「そうだ、あいつらから野菜を守ろう」「おーっ!」


 またせねば やったばかりの 衣替え    (詠人 山の上のオクラ)


ぴぴぴっ、カメムシの臭い汁攻撃です。ぺぺぺっ、アオムシの青い汁攻撃です。ぬるぬるっ、ナメクジの体液攻撃です。「わあ、これはたまらん」新調したドロボー服もどろどろのぬるぬるのくさくさです。「あ〜あ、こんなことなら自分でナスを作ればよかった」    


 秋浅し となりはなにわ 節うなる     (詠人 じっちゃん)


♪ちょうど時間となりましたぁ〜。感謝御礼ナツおばあちゃん〜、これで九句もかたづいたぁ〜。正調家庭菜園混乱絵巻、忘夏来秋収穫の段、忠虫茄子畑の合戦の巻、これにて落着。


いかがでした。句とは異なものアビバもの。連作という楽しみ方もあるんですよ。なお、配役や句の扱われ方についての苦情はどうかご勘弁を。秋は人心をまどわせますねぇ。あの人やあの人がまじめに句を詠もうとするなんて・・・。では、次回をお楽しみに。

| home | sitemap | top |