畑 日 記

「縁起かつぎ」                         2000/8/24


うちの母は縁起かつぎだ。靴下をはいて寝たらいけない、裸でトイレに行ってはいけない、などと謎の言い伝えに縛られている。高校時代のある日、私は猿の夢を見た。それ以前に、犬の夢を見ると喧嘩するとか、猫の夢を見ると物をなくすとか、蛇の夢を見ると金が儲かるなど、得体の知れない夢判断を聞かされていたので、きっと猿の夢にも何らかの意味が隠されていると思い、朝起き抜けに母に尋ねた。
「猿の夢見た。ええの?悪いの?」すると、血相を変えた母に
「朝から猿の話をする者があるか!梅干三つと唱えよ」と怒鳴られた。私は訳もわからず「梅干三つ、梅干三つ」と唱え続け、更に庭の南天の木に「なんてんさん、悪い夢を食べてください」とお願いしてから登校したのだ。


あるだろうと予測はしていたが、やはり野菜作りにもやってはいけないことがあった。ひとりばえのカボチャを食べてはいけない。「なぜか」と問うと「なんでやろねえ」干支でいう「兎」の日に種を蒔いたり苗を植えたりすると、その野菜を悪いことに使う羽目になる。「なぜだ」「昔からそう言うんや」


今年は春の苗を植え急ぎすぎて、トマト、キュウリ、ピーマン、ナスなどがどうも調子が悪い。寒さ対策にトンネルやアンドンをすればよかったのだが、後の祭だ。特にナスは秋どりを楽しみにしていただけに気に掛かる。そんな私の気持ちを察してか、園芸店が秋ナスの苗を売り出していた。さっそく三本ほど買って、「兎」の日でないことを祈りながら定植した。


「ナスをふたところに植えたらいかん!」とほほ。父の腰がギックリなったのは私のせいらしい。母の妹が入院した時にナスが二ヶ所に植えられていたという実例付きの告発だ。とはいえ、もう実がなっているのに移植する訳にもいかないし、二ヶ所の間につながるようにナスを植えて 「細長い一ヶ所」にするのも無理だ。すったもんだのあげく
「では、先に植えたのがナスビで、後から植えたのが秋ナス、ということでどうだ」と提案すると「おお、そうしとけ」とあっさり。いいかげんなもんだ。


「他に縁起の悪いことがあったら、先に教えといてくれ。」
「そんなもん、急に言われてもわからん。またその時に教えたろ」
その時では遅いやろがっ。




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