畑 日 記

  「トウガン」                                  2000/8/16


草取りをしていて首をかしげてしまった。雑草の陣地に見覚えのある双葉がいくつも開いている。「キュウリのように思う」妻も同感だった。面白そうなのでそのままおいといたら、そのうち本葉が出てつるが伸び始め「やっぱりキュウリだったか」と確信した。


うちでは虫食いや痛んだ野菜はその場にほったらかしだし、生ゴミは畑に埋めてしまうので、こういう「ひとり生え」がよくある。今年もキュウリが20本、ピーマンが5本、ミニトマトが1本、近くの畑から種が飛んできたらしい赤ジソが1本生えた。トマトとシソはニラの横だったのでそのままにして、キュウリとピーマンはポットに移し替えた。


二週間ほどたったがどうも成長がよくない。よくない筈だ。うちのキュウリは接木苗じゃないか。接木苗は一回限りでその種からはちゃんとしたものは育たないのだった。なんと長い間気付かなかったのだろう。で、ポットの苗は刈った雑草の山に捨ててしまった。


そんなことも忘れた頃、久しぶりにおじさんおばさんが来てくれた。枯草の山は新しい雑草に包まれていて、そこの草刈りをしてくれていたおばさんに「ここには何を植えとるんやん」と尋ねられた。キュウリはそこで元気に育っていた。「いや、それはキュウリのひとり生えを捨てたら勝手に伸びて・・・・」「キュウリと違うやんか。これ」おばさんがつるを持ち上げると何かの実がなっていた。「ええー!」夫婦で目を飛び出させて見たものはウリぐらいのトウガンだった。引っ越して以来、トウガンなんて一度も作ったことはないし、買ったことももらったこともない。なぜ、どうして。存在しないはずの存在。しかも、そんな大きなものが五個もできているのに、なんと長い間気付かずにいたことか。


キュウリの苗が丈夫なトウガンに接木してあったのだろうというおばさんの説に納得したものの、トウガンとは困ったことになった。生命力の強さ以外に、いろんなジャンルで野菜界のトップクラスだ。大きさはスイカと双璧を成し、料理法の少なさはラディッシュ並み。馴染みのなさはニガウリと競い、不必要度はシュンギクに勝るうえ、もらって困る度は生タケノコをしのぐ。なにしろ「家庭菜園入門」「有機農法のすすめ」「三六五日のおかず百科」のどれにも掲載されていないツワモノなのだ。


今もかれらは草むらですくすく育っている。そして私はもう長いこと、それに気付かないフリをしつづけている。



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