畑 日 記

「おソバでサンバ!」                               2002/1/8

暮れの片付けをしていて気が付いた。夏に収穫したソバが干しっぱなしになっている。束にしたものを支柱にかけて、家の裏の雨の当たらないところにぶら下げたまま忘れていた。

すでにソバの実はかなり落ちて、芽が出て育って枯れたものもある。雨は当たらないが風は結構きついのだ。

風・・・支柱を曲げ、ネットを倒し、トンネルをひっぺがし、苗をなぎ倒す風。野菜作りをする者の目から見れば悪役に違いない。しかし、ソバと出会ったとたん、風は有用な自然の施しとなるのだ。そう、あの作業ができる。

私は浮かれていた。知識でしか知らないあの作業、ソバを上に放り上げて混ざっているゴミだけを風で飛ばすという、あれが体験できるのだ。本来ならザルの一方があいた「てみ」という道具を使うのだが、残念ながらコレクションには入っていない。仕方ないので、園芸用の四角いたらいを使うことにした。

まずはバケツの中でソバの穂をもむ。さすが半年も乾燥させただけあって、カサカサと粉になっていく。バケツに半分ほどできた残骸をふるいにかける。ソバの実より粗い目のふるいで茎や葉の残骸を取り除き、次に目の細かいふるいでヌカのようなゴミと分ける。それだけの作業で、半分の量になってしまった。いよいよメインの仕事が始まる。

さいわい、あたりに子供の姿はない。ゴミやホコリが飛ぶので家から離れた隣の田んぼとの境目に立つ。風の方向を読む。風を背にしないとゴミを浴びてしまうからだ。まずは風を待ってバケツのソバを高い位置からたらいに落とす。おお、この感動をどのような言葉で伝えたらいいのだろう。見事にゴミだけが吹き飛ばされていく。数回くり返しているうちに、ザラザラと小気味いい音を立てるようになってきた。

ここからが本番。たらいを持ち上げ、左右に傾けてみる。大勢のソバの子たちが一斉に低い方へ移動する。ザザーッと波の音が聞こえる。あ、カニが、カモメが、入道雲が・・・。いつまでもこんなことはやっていられない。ソバの実をコーナーに寄せ、風がきたらチャーハンを作る要領で放り上げる。タカイタカイをしているようだ。黒い粒子は液体のように波を打ち、生命体のようにはしゃいでいる。ソバと私は一体となって・・・と、調子に乗りすぎて失敗。私はチャーハンもよくこぼすのだ。

それでも続けていると体が覚えるのだろう、彼らを意のままに操れるようになってきた。脳が命令を出さなくても、体中の神経が踊り、飛び跳ね、リズムを刻む。ひゃっほー。だんだんノッてきた。ほらほら、太鼓を打ち鳴らせ。サンバだ、ラテンだ、カーニバルだ!おっと、まだ葉っぱの破片が入ってたぜ。絶対手では取らないぜ。ほうら、風が進路を変えた。遅れをとるな、向きを変えろ!

お隣の奥さんがベランダで布団を干しながら、こちらを見ていた。こんにちは、風が強いですねぇ。風向きを見るフリをして背を向けた。・・・波の音。

サッシのしまる音がした。ひゃっほー、サンバッサンバッ・・・

おそらく、春になればあの一帯から新しいソバが芽吹くだろう。今回は1デシリットルの種を蒔き、3デシリットルしか収穫できなかった。今、私は収穫したソバを、食べるか、マラカスにするか、思案にくれているところだ。

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