畑 日 記

「シグナル」                               2001/11/27

昔の人はうまいこと言ったものだ。「青はすすめ、黄色は注意、赤は止まれ」安心の青、注意を喚起する黄色、危険を知らせる赤。それは知らず知らずのうちに体得している人間の本能だ。学校で教えるまでもない。人間の長い歴史の中で、DNAに刻み込まれた野生の判断なのだ。畑はこの三色に支配されている。圧倒的多数の安心の陰に、注意と危険が息をひそめて隠れているのだ。

信号で言う青とは緑のことだ。若々しく瑞々しい濃緑の野菜たち。健康で自由で満ち足りた野菜たち。これこそが本来の自然の色だ。緑のものは安心できる。数ある害虫の中でもアオムシなら手でつまめる。たべてみたい衝動に駆られることすらまれではない。実際、食べてしまったこともあるに違いない。「ミドリ」という女性はいるが、「アカ」や「キ」という人はいないだろう。もしいたら、親を恨んでいるはずだ。緑には心をなごませる作用がある。人間ですら、顔色が緑になったら、安らかに眠れるのだ。

黄色は注意。工事現場の色だ。ほうれん草など葉モノの葉が黄色くなったら、何かが不足している証拠だ。キュウリが黄色くなったら、腐り始めた証拠だ。クリーム色のトウモロコシを熱湯に入れると鮮やかな黄色になる。これは、お湯がやけどするぐらい熱いという証拠だ。もしアオムシが黄色かったら怖いだろう。テントウムシも黄色くなるとウリハムシという害虫になる。こんなウソにも注意しなくてはならない。

赤、危険なしるしの赤。トマトが真っ赤になったら、そらそら落ちるぞ、そらそら腐るぞ、そらそら虫来るぞ、という危険信号だ。真っ赤になった唐辛子をかじったりしたらとんでもない目にあうだろう。真っ赤なキノコを食べるには相当の勇気が必要だろう。赤いアオムシ、想像するだに恐ろしい。赤は「かかわっちゃダメ」のしるしなのだ。

畑という、土色、葉色、花色、実色に限定された世界では、黄や赤は警戒色となる。この三色を一手に引き受ける野菜が存在する。ナス科のわがまま野菜、ピーマンだ。作り物のように鮮やかな赤、黄、緑。名前も「パプリカ」なんていうと、いかにもプラスティックっぽい。化学的薬品的着色をされたような鮮やかな色合いをしている。あざといほどにその色合いを強調しているのだ。

緑のピーマンはほっておいてもできる。カラーピーマンでも緑の段階までなら簡単に育てられる。これが赤や黄のピーマンを収穫するとなると栽培の難易度はぐ〜んとアップする。緑を経て、色づくカラーピーマンは、その変色の過程で非常に注意を要する。雨や夜露でヘタの部分に水分がたまるとすぐ腐ってしまう。きれいにできたと思っていても、裏側に網目の傷がついてたりする。なんとも思い通りになりにくい野菜だ。

シーズンも終わりがけ、隣り合うピーマンとシシトウの収穫をした。枝は伸び放題で、からみあっている。その下にゆれているのはすずなりの・・・はてなはてな。これはどちらの実だろう。ピーマンにしては細おもて、シシトウにしては馬面。あちらを立てればこちらが立たず。はざ間で微笑むお前はだあれ?

・・・あああーっ!これはまさか「シシマン」ではないか!なんと言うことだ!緑だから安心していたのに、誰も注意しなかったのか、止める者はいなかったのか!おおおお父さんは許しませんよ〜!

| home | sitemap | top |