畑 日 記

           「伊勢イモ」                                 2000/11/29

どこにでもその土地の名がついた名産品がある。我が家は伊勢神宮のおひざもと伊勢市のとなり村にあるので身の回りはイセイセしている。イセエビを筆頭に伊勢うどん、伊勢茶、伊勢沢庵と、由緒正しい「伊勢」の名を冠するものはこの近隣には数多い。その「伊勢モノ」グループの片隅に「伊勢イモ」と呼ばれるヤマイモがあるのだ。

伊勢イモの特徴はなんと言っても粘りの強さだ。以前いただき物の伊勢イモでとろろ汁を作った経験がある。それはまさに戦いだった。すりおろしてもおろし金からは落ちていかない。すり鉢のなかでもまるでつきたての餅のようで、なかなかダシ汁に馴染んでくれない。やっとのことで倍に延ばしてもおたまでなんかすくえない。

実家のある鳥羽で、定年後に畑を借りて野菜を作っている父親が種イモをくれた。追肥、土寄せ、防虫、草取りなど一切必要なし。唯一の手間は暴走を防ぐことだ。父の助言で作った竹杭の囲いを乗り越え、となりのサトイモをガンジガラメにし、ウネ間の通り道は埋没、茂みの中には謎のキノコを繁殖させ、挙句の果てにはヘビまで住まわせる暴れん坊なのだ。

冬が来て収穫。掘り上げてみると、立体パズルのように組み合わさった大きなイモが三つも四つもついている。性格通り黒くてひげまみれの悪人面だ。計ってみたら一株で三kg近くあった。晩御飯はとろろ汁だ。土質か作り方か、以前にもらったものと比べると幾分粘りが弱い気がしたが、その濃厚な味わいをサスガサスガと夫婦で堪能した。

この出来をさっそく父に報告すると、親戚に配るので三つほどよこせという。取りに来た父に見せるとしきりに感心している。野菜作りをしている者同志、たとえ親子といえどもライバル心を持っていた私は鼻高々だった。

「伊勢イモって、こんなに育つんやなあ。もっと丸っこいモンやと思とった」
「ああ、ホンモノはな」脳神経の整理整頓のため沈黙。ホンモノは?どういうこと?
「種イモをくれた人が言うにはな、この辺で採れるイモやからとりあえずみんな“伊勢イモ”って呼んどるやと」通称伊勢イモ?じゃあ本当はナニイモ?
「さあ、なんて言うイモやろなあ」

教えてやろう、父よ。このイモはな。「ニセイモ」じゃー!うわー!

という訳で「伊勢イモだ」といって配った、友人、親戚、会社の上司、ご近所の皆さん。「伊勢イモ採れました」とカキコしてまわったホームページの皆さん。本当に申し訳ございませんでした!皆さんも類似品には注意しましょう。

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