畑 日 記

           「イクポタ」                                 2000/11/13

スーパーへ買い物に行く。順路は野菜から始まる。しらんふりで通り過ぎながらも、心の中ではぐふぐふとほくそえんでいる。
「あの人もこの人もお金を払って野菜を買っている。あんなしなびたホウレンソウを。季節はずれのトマトを。わずかなサトイモを。なに、キュウリが三本で百円?オレの作ったキュウリなら一本で百円だぜ」一人悦にいって野菜売り場を後にする。

そのあと私は打ちのめされる。肉、卵、牛乳。世の中には牛や豚や鶏を飼っている人が存在するのだ。あの日、初めての収穫を体験して以来、果てしなく広がる夢は田舎での自給自足生活。ああ、家畜が飼いたい。

以前、我が家ではチャボを飼っていた。メスのトトトとコココ、オスの松風という三羽だ。会社のお得意さんにひよこをもらったのだが、松風が「ピヨピヨ」から「コーケピヨ」を経て「コケコッコー」に至り、ペット屋さんに引き取ってもらうことにした。ところが「オスだけではなあ。せめてつがいなら」というので我が家にはメスが一羽となってしまった。これがトトトかコココかわからない。面倒なのでイクポタと改名した。

小型のチャボとはいえニワトリはメスでも声が大きい。猫除け、子供除けのためにベランダで飼っていたのだが、お向かいのマイちゃんにバレてしまった。せがまれて見せてあげたとき「ないしょやで」と念を押しといたのだが、イクポタが次々と子供に声をかけるので、結局近所中の子供にベランダ詣でを経験させるハメになってしまった。

生活はすべてイクポタ中心になる。夜は、きざんだ野菜やダシガラのニボシなどをタッパーに入れて二階に上がる。冬は寒さ防止、夏は早起き防止のために鳥小屋におおいをかけてから寝る。それでも夏場は四時過ぎには「食おうー」と鳴き始める。飛び起きてタッパーのエサをやる。専用の「コッコサン」というエサがあるのだがそれでは満足しない。近所迷惑にならないよう機嫌取りをしなくてはならないのだ。なぜだかクラッカーが好きで、毎日1枚与えていた。「なぜだ」と尋ねたら「固形」という返事だった。

辛いばかりではなかった。卵を生んだのだ。普通のニワトリの卵とウズラの卵の中間ぐらいの大きさで、納豆にベストマッチだった。黄身の色は薄いのだが味は濃厚。朝、卵が見つからないと、座っているイクポタを押しのけて探したものだ。

今年の四月で約二年半の付き合いが終わった。一ヶ月ぐらいは早起き癖が続いたが、今ではすっかりネボスケだ。じゃあまた飼うか。いやもうケッコウ。やっぱりこのオチか。

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