畑 日 記

               「サトイモ」                               2000/11/1

私の勤めている会社は、店舗も兼ねているため毎日大勢の人が訪れる。得意先の重役から一般のお客まで、それはそれは多種多様の顔がある。その中にいつもスーツをバッチリ着こなしてさっそうと現れる紳士がいる。個人事務所を経営する、新進気鋭のブローカーなのだが、その人はサトイモに似ている。

頬の紅いリンゴちゃんや色黒痩せぎすのゴボッ子というのは聞いたことがあるが、なかなか野菜に似た人にはお目にかかれない。「ウチの課長、ホウレンソウに似てるよね〜」「あいつ、シシトウっぽいよな」「アタシのカレってジネンジョチック」そんな話は聞いたことがない。

だがサトイモ系の人は確かに存在する。しかも二種類。皮付き派と皮剥いた派だ。前者は危うい頭髪に丸顔、後者はかすかな頭髪にやや角のある顔、そしてぬらり感。ちなみに件の紳士は皮付きだ。そんな彼らを集めて、イモ洗いに似た団体や煮っころがしに似た団体というものを見てみたいものだ。

その年の初収穫を我が家ではどうするか。例えばトマトなら洗ってその場でかじりつく。ニンジンは生でマヨネーズ。ホウレンソウはハッパの軸を持って塩の利いた熱湯をくぐらせしゃぶしゃぶ風に。キュウリとナスは川に流して竜神様に捧げる。

サトイモはというともちろん皮のままで茹でて食べる。熱々を味噌か生姜醤油あるいは何もつけずにいただく。芋と耳たぶを往復させながら指先で圧迫するとピッと皮が裂け中から豊満なボディーが飛び出してくる。口に入れても噛んだりせずに、舌先で押しつぶしこね回し、ぬめりを利用して飲み込む。はあっと余分の熱を吐き出すと、鍋とおんなじ湯気の匂い。こんなにうまいものだったのか。

子供の頃「晩ごはんのおかずはなに?」と母親にきいて「サトイモ」という答えが返ってくるとガッカリしたものだが、今ではまったく逆だ。「晩ごはんのおかずは?」ときかれ「サトイモ」と答えると妻が「わーい」と喜ぶ。二重の意味で逆になっている。

今年の初収穫のバケツ一杯のサトイモはもうすでにない。久しぶりに会った知り合いに「今は野菜作ったりしているんだよ」と調子に乗って全部あげてしまったのだ。「また掘ればいいや」と思っていたら、休日ごとの雨、雨、雨。

という訳で、今年まだ食べてもいないサトイモについて、さんざんエラそうな能書きをたれまして、どうもすみませんでしたー。

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