一挙両得のススメ
〜あるいは濡手に粟の日々〜
コンコンコン…。
火影の執務室のドアが、軽快なノックの音を響かせた。三度叩くのは、昔からのシズネのくせだ。綱手が応じると、黒髪・黒い瞳のくの一が姿を見せた。
医療忍者であり、五代目火影を継いだ綱手の側近でもある。
「待ちかねたぞ、シズネ」
「申し訳ありません、綱手様。こちらが例の企画の正確な数値です。思った以上に好評で、集計を取るのに手間取りました」
そう言ってシズネは一冊のファイルを手渡した。
「うむ…。ほう、これは…予想以上だな」
「この本数で定価がこうですので、原価から考えるとこう…。諸経費を差し引いても、純利益はこの程度は軽いかと…。さらに、まだまだ売れ続けておりますので
利潤も増える一方かと思われます」
シズネの言葉に一々綱手は頷いていく。
「しかも続編の要望が多数届いております」
語尾にハートマークが見えるくらいに、シズネの声はウキウキしていた。日頃冷静な彼女らしくない程だ。
ファイルを一瞥し、綱手は満足げに頷いた。
「ふむ。この調子なら里の復興も、思ったより早く済みそうだな。良い部下を持ったものだ」
綱手企画の「里の復興資金を稼げ!AV大作戦」は、その主役達の熱演により大好評を得た。
木の葉の後ろ盾である大国・火の国の、ありとあらゆる年齢層の女性達を虜にしたのだ。十代・二十代の女性達は、冷たい美貌のカカシが恋人にだけ見せる
熱い顔に心ときめかされ、四十代・五十代層は、恥ずかしげに頬を染めつつ恋人に縋るイルカの可愛らしさに視線を奪われた。ちなみに三十代層は、
カカシにもイルカにも均等にファンが付いているらしい。
なおかつ、最近はこっそり男性層にも人気が出てきたとか、何とか。そのせいでか、売れ行きは一向に衰える気配を見せないのだった。
まさに火の国は今、カカイルブームの嵐が吹き荒れていた。
「で、綱手様。当然要望がある以上、続編の制作はお考えなのでしょう?」
キラリとシズネの瞳が光った。その輝きを見逃す綱手ではない。右腕であるところの、有能な女性を味方に付ければ自分の仕事を減らした上で、
なおかつ有意義な暇つぶし…もとい趣味と実益を兼ねた復興計画を実行出来るのだ。
「当然だな。これ程人気が出るとは思わなかったが、要望があれば叶えるのも火影の努めだ。しかしな、シズネ。あやつらを何とか出演させる手だてはあるか?」
綱手の質問に、シズネもううん、と言葉を濁す。
「カカシ先生はともかく、問題はイルカ先生ですよね…」
カカシはそれでなくても、自分達の仲を公表したがっていた。つまり「大っぴらにしちゃえば、イルカ先生に群がる虫をけちらせるでショ。
あの人は変なところですっごい鈍感なんだもん」と言う事らしい。
しかし変に生真面目なイルカは、そう言う事は言いふらすようなものではないと反対している。いや、していた。言いくるめられてこのAVに出る羽目になった当時は、
イルカも部屋に閉じこもってしばらく出てこなかったとか。
「イルカか…。弱みは多そうだがな」
「そうですねえー」
二人が頭を突き合わせて、どうやってカカシとイルカを次回作に出演させるかを考えている頃、当の二人は火影執務室に向かって歩いていた。
ノックと共に、ひょこりと顔を覗かせる。今まさに話題にしていた二人の登場に、綱手もシズネも柄にもなく緊張した。ほんのちょっとだけ。
「どーも。ご機嫌いかがですか、火影様」
「それなりだな。ところで何の用だ、カカシ」
「それなり、ですか?例の企画ばか当たりしたとか伺いましたが?俺たちの熱演のおかげでショ。ちょっとくらいご褒美貰っても罰は当たらないと思うんですけどね〜」
カカシのいかにも軽そうな口調に、綱手の額に青筋が浮かぶ。
「…なんだと?」
「予想を遙かに超えて大好評。売り上げもバカにならない数字だとか。誤魔化そうったって無駄ですかーらね。俺を誰だと思ってんです?」
ぐいっと額当てをずらして無意味に写輪眼をさらすカカシに、綱手はぶん殴りたい衝動を隠してそれで?と話を促した。
「出演料寄こせってんじゃアリマセン。そのかわりオヤスミ下さい。もちろんイルカ先生も一緒にね」
休み…。その一言にシズネが反応した。
「一週間…いや、五日でも構いません。そのくらい、いいでショ」
「五日…五日か。イルカ、お主はそれでいいのか?」
がっちりとカカシに抱き込まれ、半泣き状態のイルカに視線を移す。
「あ、いえ…俺は、そのう〜…」
「もっちろん、かまいませ〜ん!俺とイルカ先生は一心同体ですから!」
「だっ!誰と誰が一心同体ですかっ!勝手なこと言わないで下さいよっ!」
「え〜っ!」
「え〜じゃない!」
「だって〜…」
「だってでもないっ!」
犬も食わない痴話喧嘩。普段なら微笑ましいと思わないでもないが、ここでいつまでも続けられては綱手もシズネもたまらない。コホンとひとつ咳払いをして、
綱手は二人の会話に割り込んだ。
「いい加減にせんか、二人とも。ここを何処だと思っておる」
イルカははっと綱手を振り返り、ひたすら恐縮した。
「す、すみませんっ!」
「それでカカシ。五日も休みを取ってどうするつもりなんだ?まさか寝て過ごすわけでもあるまい」
「いやあ、俺としては寝て過ごすのでもイイんですけどね」
ふざけた言葉を吐きつつ、イルカを抱きしめる手を腰に落とす。ぎょっとしたイルカがジタバタともがくが、もちろんカカシの腕からは逃れられない。
「ま、そんな事になったらこの人が泣くだろうからしませんけーどね。温泉にでも行ってゆっくりしようかとね、思ってます」
おんせん…。綱手の目がキラリと光った。
デヘデヘとイルカをかまうカカシと、それに抵抗するのに必死のイルカは、不運にもそれをうっかり見逃してしまった。
「成る程な…。確かにお前達には大いに世話になった。良かろう、休みはくれてやる。五日と言わず一週間やるぞ。大盤振る舞いだ、喜べ。
ついでに温泉旅館も世話してやろう」
綱手が挙げた名は、火の国で最高級にランクされる有名高級旅館だった。
はっきり言ってイルカの給料では、一生縁のない場所である。なのにカカシと来たら「ああ、あそこですか。そりゃいいですね〜。
イルカ先生そこにしましょう。せっかく火影様の紹介だし」などと、のほほんととんでもない事を言う。
「じ、冗談でしょう。そんな高級旅館になんて泊まれませんよっ!アンタ俺の給料いくらだと思ってるんですっ」
「え?アカデミーの給料ってそんなに安いの?」
うっそー!ホントー?ってな感じで驚くカカシに、イルカは一瞬殺意を覚えた。ぐっと質問の答えに詰まり、そのまま視線を綱手に転じる。
それに合わせてカカシも視線を綱手に移動させた。
じいっ…と四つの瞳が五代目火影に注がれると、さすがの綱手も居心地が悪いのか、二人が何も言わないうちにさっさと綱手から折れたのだった。
「カカシの給料なら問題もなかろうがこの際だ。褒美として休暇は旅館込みでくれてやる。宿泊料は里から出してやるから、その代わり休みが終わったら
キリキリ働いて貰うぞ二人とも!」
いよっ、火影様太っ腹!
望外のご褒美に、カカシとイルカは気をよくして執務室から去っていった。綱手の性格をもっと良く考えれば、そこに張り巡らされた罠に気付いただろうに。
写輪眼のカカシともあろう者が詰めをあやまった。まあどちらに転んでも、カカシに損はないのだが。
「シズネ…」
「綱手様…」
二人同時に声を発した。二人は目を見交わし、ニヤリと笑い合う。考えるている事は、もちろん言わずもがなである。
「ふっふっふっ…、お主も悪よのう…」
「いえいえ、お代官様にはかないませんて…」
「「ふぉっふぉっふぉっ……!」」
火影の執務室に不気味な笑い声が木霊した。
笑いを収めると、早速とばかりにシズネは行動を開始した。
「では、すぐに手配を致しますわ。旅館の方に話をつけて、一番都合の良い部屋を空けておいて貰います。カメラやスタッフとかの人出もいりますし、大忙しですね!」
「うむ。頼むぞシズネ。人手なら上忍だろうが暗部だろうが好きに使え」
暗部の面々もこんな事に駆り出されるために厳しい修行に耐え、技を磨いたわけでもなかろうが、誰が五代目に逆らえようか。
「はいっ綱手様、お任せ下さい!あそこは全室に露天風呂が付いてるんですよね!ああ、楽しみですわ!ではっ!」
その後、火の国に「アナタのハートを鷲掴み!彼らの熱い愛と日常・夢の一週間ルポ」と銘打った隠し撮り裏ビデオが蔓延したのは言うまでもない。
スタッフ一同は綱手命名のビデオタイトルに顎が外れそうになったが、誰もその事について明言した者はいなかった。生命は一つ。長い物には巻かれろ。
忍者の世界もサラリーマンと同様だ。
そうして木の葉の里の金庫は潤い、火影のフトコロは更に潤った。火の国の女性達は心が潤い、カカシとイルカは心身共に潤った。
誰も損なく良かったね、と言うところでこの話は終わる。
ちゃんちゃん♪
お友達のMickさんのご本のゲスト原稿でした〜。
MickさんのカカイルAVシリーズのパロ(笑) Mickさんの漫画をご存じの方すみません〜!