巻物


「アニキ、これ何だか分かりやすかい?」
 


 
略奪したお宝の山から、野郎共の一人がひょいと手にした巻物。
「ああ?巻物みてえだが中身まではわかるわけねえだろ。ちぃっと広げてみろ」
へい、と返事をして留めていた紐を解いていく。
よく見ると仕立ては上物っぽい。だが如何せん古い物らしく隅の方がボロボロだ。
まあ、外国との交易ではこういう古い物は喜ばれるから、中身を確認したらさっさと売り飛ばすのがいいだろう。


「うーん、読めねえ…」
「んだ、こりゃ…。地図と、書き付け…?」
「ア、アニキ!もしかしてお宝の地図じゃあ…!」
「ああ!もしかして財宝の在処を記した地図とか!」
野郎共が嬉しそうに騒ぎ立てる。
そんな都合の良いモンがあるわけがねえと思いつつ、元親はその巻物を覗き込んだ。
どこの地図だろう、これは。この辺りの島の形は大抵頭に叩き込んである。
だが、こんな形の島はない。少なくとも元親に覚えはなかった。
「いいから、そんな訳のわかんねえもんに気を取られてねえで、さっさとお宝を運び出せ!」
元親の声に野郎共が慌てて仕事を再開する。


元親はそれを満足そうに眺めてから、いわくありげな巻物を一応と懐に仕舞った。
まあ、何かに役立つ事もあるだろう、程度の軽い気持ちで。









     
「Hey,元親!いいモンはあったか?」


四国の港に着くと、いつやって来たのか政宗が出迎えた。
「政宗?てめぇ、いつ来たんだ?」
「三日前だ。せっかく会いに来たってのにアンタはお宝探しでいねえと来た。待ちかねたぜ?」
久しぶりに見た顔は相変わらず精悍で、元親はどきりと胸を鳴らす。
「来るなら来るって事前に知らせろっていつも言ってんだろぉ?でなきゃ無駄足になっても知らねえってよ」
「んな暇あるかよ。思い立ったらすぐに出てくるんだから」
政宗のこういう行動はいつもの事で、右目と呼ばれる男の苦労を思うと溜息が零れた。
「まさか右目の兄さんに黙って出てきたんじゃねえだろうな?」
「いいや?そんな訳ねえだろ」
少しも焦らずそう答えるところを見ると、今回ばかりは承諾を取ってやって来たようだ。
「ちゃんと言ってきたぜ、ちょっと出てくるってな」
しゃあしゃあとそう宣う。
「………まさむね〜」
勘弁してくれ、睨まれるのは俺なんだぞ。
「いいか、来るのは構わねえけどよ。ちゃんと筋を通してから来いって言ってんだろうがっ」


「それ、何だ?」
「え?」


元親の懐から少しはみ出した巻物を目聡く見つけて、政宗は上手く小言から逃れた。
「巻物になんで島の地図?それにしても、この島…」
「なんだ?知ってる島か?」
島の形は似ているが、果たして政宗が知っている島かどうかは判別が着かない。
それにあそこはただの離島で、こんな風に書き付けと共に記されるような特別な島ではないはずだ。
「いや、思い違いだ…」
「そうか…、まあ、そう上手くいくはずもねぇか」
もしこれが政宗の知る島だったとしても、政宗はこう答えただろう。
何故って、やっと元親に会えたのだ。元親の興味が自分以外に向くのを、どうして許せようか。


「それよりアンタに色々土産があるんだぜ。それを見てくれよ、せっかく持ってきたんだから」
「おう、悪りぃな!野郎共!今日は宴会だ!お宝も手に入ったし、盛大にやろうぜ!」
「おおおぉーーーっ!アニキーーーっ!!」




結局それから数ヶ月、巻物は元親の部屋の隅に転がされ存在を忘れられるのだった。