刀
奥州にまで乗り込んで手に入れたのは一振りの美しい刀だった。
「これが竜の爪ですか、なるほど美しい物ですな。奥州の刀鍛冶の力量がうかがえます」
確かにそうだ。あの男にこの刀は、それは似合っていた。
片手に三本。合わせて六本の刀を振るう男。最初に見た時には唖然としたものだったが…。
ふと、四国でもこのくらいの物が打てるかどうか気になった。
「さあ、どんなもんでしょう。何しろ無骨な者が多うございますれば…農具とはまた違いますし」
あるいは一条の者に聞けば、多少気の利いた刀鍛冶を知っているかも知れない。
「刀をお望みですか?貴方がお使いになるわけでもないのに?」
家臣の者が言う通り、自分が使うのは巨大な槍だ。碇槍と称される一種独特の得物だった。
だが、作りたいと思ってしまったのだ。
あの男に似合う爪を。
自分で奪ってきておいて、何を今更と言われるかも知れないが。
「これに見劣りしない程のものは恐らく無理でしょうな。どうしてもと仰るなら堺の商人に相応の者を手配なされるが宜しかろう」
そう言われて多少落胆はしたもののまあそんなもんかと納得した。
四国はやはり中央に比べれば物も技術も劣っているのだな、と。
「天下なんてもんには興味もなかったんだがなぁ」
あの時は自分に運があったが次はどうだろう。それはいつも心の隅にある思いだ。
天下を求める事は、すなわちあの男との再会を意味する。
そしてそれは、自分の望みでもあった。
もう一度。あのぎらつく目が自分を捉える瞬間を感じたい。
ところが、そんな思惑はものの見事に竜の男に覆された。
「いたな、西海の鬼!あの時の礼に来たぜ!」
まさか向こうから乗り込んでくるとは思わなかった。奥州は遠い。
自分たちだって、あそこまでただ戦う為だけに行った訳ではない。
途中、寄港した先ではいくつかの商売もしたし、乗り込んだ先ではそれなりの海賊行為も働いた。
目的はいつも一つではなく多数あった。
なのにこの男は、ただ一つの為だけにここまで来たのだ。
楽しくなる。今までこんなに気分が高揚した事はなかった。
ああ、やはりそうだ。この独眼竜は俺を楽しませてくれる。
「はっ!またやられに来たってか、独眼竜!」
「Shut up! 今度は俺がアンタの槍を奪ってやるぜ!」
「やれるもんなら、やってみな!」
ガキッと得物がぶつかる音がした。
この時を待っていた。その目に再び俺が映るこの時を。
ニヤリと笑うと、竜もまた笑っていた。